駐在や海外移住のご家庭へ。本当にインター校がお子さまにとってベストな選択ですか?
August 27, 2026
目次
学校を選ぶ前に、まず考えてほしい「いつ日本に帰るのか」ということ
海外赴任が決まったとき、お子さまのいるご家庭が最初に悩むことの一つが学校選びではないでしょうか。
日本人学校にするのか。 現地校にするのか。 それともインターナショナルスクールにするのか。
せっかく海外で暮らすのだから、英語を身につけてほしい。インター校に数年間通えば、将来は日本語と英語を自由に使えるバイリンガルになれるかもしれない。そう考えてインター校を選ばれるご家庭は少なくありません。 もちろん、それ自体は一つの選択肢です。
私は「インター校に行くべきではない」と言いたいわけではありません。実際、インター校には、日本の学校では得にくい素晴らしい教育環境があります。 ただ、海外で子どもたちの日本語教育に携わるようになって、強く感じるようになったことがあります。 それは、
「どの学校に入れるか」を考える前に、「いつ、どこへ帰るのか」を考えた方がいい。
ということです。
小2から3年間なのか、高校卒業までなのか
例えば、小学2年生のお子さまと一緒に海外赴任するとします。 3年間の赴任で、小学5年生には日本へ戻る予定なのか。 中学校まで海外で過ごす予定なのか。 高校も海外なのか。 あるいは、そのまま海外の大学への進学まで考えているのか。 これによって、取るべき教育戦略は大きく変わります。
もし高校卒業まで海外で学び、その後も英語で大学教育を受ける可能性が高いのであれば、英語を中心とした教育環境に早く適応することには大きな意味があります。
一方で、小学校の途中から数年間だけ海外で過ごし、その後、日本の学校へ戻るのであれば話は変わります。
「せっかく海外に来たのだから英語を伸ばそう」
という理由だけでインター校を選ぶと、帰国するときに思っていた以上に大きな学習上のギャップが生まれていることがあります。
インター校に通えば、バイリンガルになるわけではない
ここは、海外に来たばかりのご家庭に特に知っておいていただきたいことです。 インター校に通うことと、バイリンガルになることは同じではありません。もちろん、毎日英語で授業を受け、友達と英語で話していれば、英語は伸びていきます。 特に子どもは、大人よりずっと早く日常会話を身につけることがあります。 数年すると、友達と英語で冗談を言い、YouTubeも英語で見て、親よりきれいな発音で話すようになるかもしれません。 すると保護者から見ると、
「もう英語は大丈夫」と思えるようになります。
でも、「英語で話せること」と「英語を使って年齢相応の学習ができること」は同じではありません。 同様に、 「家では日本語で話していること」と「日本語を使って年齢相応の学習ができること」も同じではありません。 ここが、海外子育てで非常に見えにくいところです。
海外生活で止まるのは、「国語」の勉強だけではありません
日本の学校に通っていれば、小学校の6年間を通して、子どもたちは日本語でさまざまなことを学びます。 国語だけではありません。 算数でも、 「理由を説明しましょう」 「二つの考え方を比較しましょう」 と問われます。
理科では、観察したことと、そこから考えられることを分けます。 社会では、複数の資料を読み、原因と結果を考えます。 学年が上がるにつれて、 「なぜそう考えたのか」 「具体例を挙げなさい」 「共通点と相違点を説明しなさい」 「筆者の主張をまとめなさい」 といった課題が増えていきます。
つまり日本の学校では、子どもたちは教科の知識だけではなく、日本語を使って考える方法そのものを少しずつ学んでいきます。 海外へ移るということは、この流れから一度離れるということでもあります。
もちろん、インター校でも同じように考える力は育てます。 ただし、それを英語で学ぶことになります。 英語を習得している途中のお子さまであれば、最初から年齢相応の複雑な言葉を自由に扱えるわけではありません。 「考える力がない」のではありません。 考えたいことに対して、使える言葉がまだ追いついていない。 そんな時期が生まれる可能性があります。
母語や家庭言語を学習の土台として維持することの重要性は、近年の多言語教育でも重視されています。UNESCOも、家庭言語を学習の基盤として活用することは、読み書きだけでなく、他の言語や教科学習を支える土台になるとしています。
帰国したら日本語はすぐ戻る?
ここでもう一つ、よくある考え方があります。 「どうせ3年後には日本に帰るのだから、そのとき日本語はまた伸びるだろう」
確かに、日常会話だけを見れば、比較的早く日本の環境に戻れる子もいるでしょう。 しかし、問題は日常会話ではありません。 例えば、小学3年生から小学6年生まで海外で過ごしたとします。 日本へ戻ったとき、「漢字を少し忘れている。」 というだけなら、まだ比較的分かりやすい問題です。
もっと大きいのは、 その3年間に日本の学校で学んでいたはずの語彙、文章表現、教科学習の言葉に触れていないことです。 さらに、理科や社会などでは、学習してきた内容そのものも異なります。
そこで、 「帰国したら3年間の遅れを取り戻せばいい」と考えがちなのですが、実際にはそれほど単純ではありません。 例えば、理科の知識を取り戻そうとして日本の参考書を開いたとします。 その参考書に書かれている文章そのものを読む力が弱くなっていたら、どうでしょう。
つまり、 失った教科知識を取り戻したいのに、それを学び直すための道具である日本語まで弱くなっている。 ということが起こり得ます。
そうなると、「3年分の理科・社会を勉強すれば終わり」ではありません。 学習内容と、それを理解するための日本語の両方を同時に取り戻す必要があります。中学生になってからこれを行うのは、決して簡単ではありません。
特に慎重に考えてほしい、小学校低学年での海外移住
私は特に、小学校低学年で海外へ移るご家庭には、このことを考えてほしいと思っています。 低学年のお子さまは、すでに日本語を流暢に話します。 そのため、 「日本語はもう母語として完成している」 ように見えます。
でも、実際にはここから先、日本語は大きく変化していきます。 小学校高学年、中学生になるにつれて、子どもたちは、 具体的なことだけではなく抽象的なことを考えたり、 自分の意見と事実を分けたり、 複数の情報を比較したり、 根拠を示して説明したりするようになります。 それに伴って、使う言葉も急速に高度になります。
つまり低学年は、 日本語が完成した時期ではなく、これから日本語を「考えるための言葉」へ育てていく入口でもあります。
この時期に学習言語を英語へ切り替えることが何を意味するのか。
これは「子どもは英語を覚えるのが早いから」という理由だけではなく、もう少し長期的に考える必要があります。
この問題については、次回移以降に詳しく書きたいと思います。
では、インター校を選んではいけないのか?
もちろん、そんなことはありません。 インター校には多くのメリットがあります。
- 多様な国籍や文化的背景を持つ子どもたちと学べる。
- 自分の意見を発言することを求められる。
- プレゼンテーションやプロジェクト型学習が多い。
- 日本とは異なる価値観に触れられる。
海外に住んでいるからこそ得られる、本当に貴重な経験です。 だからこそ、私は、
「インター校か日本人学校か、どちらがよい選択肢か」
という議論には、今教室をはじめてから意味を感じなくなりました。
それより重要なのは、
「この子は、この先どこで、何語を使って学んでいくのか」
という点だと考えています。
学校を決める前に、家族で考えてほしい5つのこと
海外赴任/移住が決まり、学校を選ぶのであれば、私は少なくとも次のことを家族で考えることをおすすめします。
- 日本へ帰国する可能性が最も高いのはいつか
- 帰国後、日本の学校へそのまま編入する予定なのか
- 高校・大学は日本と海外のどちらを想定しているのか
- 10歳、12歳、15歳になったとき、どの言語で本を読み、複雑なことを考えられる子にしたいのか
- 英語を伸ばす一方で、日本語を「会話」ではなく「学習できる言語」として、どう成長させ続けるのか
特に最後の問いは重要です。
日本語を家庭で話しているだけでは、必ずしも年齢相応の日本語へ成長し続けるとは限りません。
小学校低学年の日本語のまま、会話だけは流暢ということも起こり得ます。
英語か、日本語か、ではない
海外で子どもを育てていると、「英語を伸ばすか、日本語を守るか」という二者択一で考えてしまいがちです。でも、本来はそうではありません。
- 英語を伸ばしながら、日本語も年齢相応に成長させる。
- 日本語を土台にしながら、英語でも学べるようにする。
それは決して矛盾したことではありません。むしろ多言語教育についての研究でも、母語・家庭言語による学習を続けることは、第二言語の習得を妨げるものではなく、学習の土台として重要だと考えられています。
問題は、「インター校に入れたから、あとは学校に任せておけばバイリンガルになる」と考えてしまうことです。
学校を選ぶことは、教育戦略そのものではありません。 大切なのは、この子が将来、どの言語で深く考え、どの言語で学び続けられるようにするのか。そこから逆算して、学校と家庭での言語環境を設計することだと思います。
海外生活は、子どもにとって大きな財産になります。 だからこそ、「英語が話せるようになった」というところだけで終わらせず、その先まで考えてみてほしいのです。次回は、「小学校低学年での海外移住ほど、母語教育に注意してほしい理由」について書きたいと思います。
