国際バカロレアDPでJapanese Aを選べる日本語は、どう育てる?|在外のお子さまが中学生までにしておきたいこと
October 29, 2026
目次
- 1. IBDP – Japanese Aの準備は、IBの問題集を解くことから始まるわけではない
- 2. Japanese Aでは、「読める」の意味が変わる
- 3. まず必要なのは、年齢に合った文章を最後まで読む力
- 4. もし今、日本語の本をほとんど読んでいないなら
- 5. 「あらすじ」から「なぜそう思うのか」へ進む
- 6. 「感想を書く」から、「考えを組み立てる」へ
- 7. 漢字を全部書けることより、文章を読んで考えられること
- 8. 小説だけ読んでいればよいわけでもない
- 9. 「二つを比べる」経験も増やしてほしい
- 10. 口頭で「きちんと説明する」経験も必要になる
- 11. 中学生のうちに、どこまでできればよいのでしょうか
- 12. Japanese Aを目指さない家庭にも、同じ力には意味がある
- 13. 親がJapanese Aの先生になる必要はない
- 14. SSSTを考えている家庭ほど、早めに自立した読書力を
- 15. 「Japanese A対策」ではなく、日本語を年齢と一緒に育てる
- 15-1 参考資料
IBDP – Japanese Aの準備は、IBの問題集を解くことから始まるわけではない
前回の記事では、IB Diploma Programme(DP)の言語選択について、Japanese A、English A、Language B、School-Supported Self-Taught(SSST)などの違いを取り上げました。
その中で一番お伝えしたかったのは、「日本人だからJapanese Aを選べる」とは限らない、ということです。家庭で日本語を流暢に話していても、Japanese Aでは文学作品やさまざまな文章を読み、分析し、自分の解釈や意見を根拠とともに文章や口頭で表現する力が必要になります。では、将来Japanese Aを選択肢として残したい場合、小学生や中学生のうちから何をしておけばよいのでしょうか。
ここで最初に強調しておきたいのは、中学生からIBの試験対策を始める必要はないということです。Paper 1の書き方を覚える。Paper 2の過去問を解く。文学用語を暗記する。そうしたことを早く始めるのが目的ではありません。むしろ大切なのは、もっと基本的なところです。
年齢相応の日本語の文章を読める。読んだ内容について「なぜそう思うのか」を説明できる。文章の中から自分の考えを支える部分を見つけられる。そして、自分の考えをある程度まとまった文章として書ける。こうした力を中学生までに少しずつ育てておけば、16歳になってDPへ進んだとき、Japanese A特有の学び方にも入りやすくなります。
Japanese Aでは、「読める」の意味が変わる
IBのLanguage A: Literatureでは、SL(Standard Level)で7作品、HL(High Level)では10作品を学びます。単に作品を最後まで読むだけではなく、表現、構成、文脈、作者の選択などを分析し、それについて文章や口頭で考えを示します。Language A: Language and Literatureでも、SLでは4作品、HLでは6作品の文学作品に加え、さまざまな非文学テキストを扱います。
さらに現行の評価では、初めて見る文章をその場で分析するPaper 1、二つの作品を比較して論述するPaper 2、Individual Oralがあり、HLではHigher Level Essayも加わります。つまりJapanese Aでいう「読める」は、
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「漢字が読める」
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「内容が分かる」
だけではありません。例えば小説を読んで、「主人公は最後に考え方を変えた」と理解できるところから、
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「なぜ作者は、この場面の前後で主人公の描写を変えたのか」
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「その変化は作品全体のテーマとどう関係しているのか」
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「それを文章中のどの表現から説明できるのか」
まで考えていく必要があります。
もちろん、小学生や中学生にいきなりIBレベルの文学分析を求める必要はありません。しかし、「何が書いてあった?」で終わらず、「なぜ?」「どこからそう思った?」まで考える習慣は、もっと早い時期から作ることができます。
まず必要なのは、年齢に合った文章を最後まで読む力
在外のお子さまで最初に難しくなりやすいのは、文学分析以前に、年齢相応の日本語の本を一冊読み通すことです。 学校では英語やオランダ語で毎日文章を読んでいる一方、日本語では漫画や短いSNS、家族からのメッセージくらいしか読まないということも珍しくありません。すると、日本語自体は流暢に話せても、数十ページ、100ページと続く文章を日本語で追い続けることに慣れていない、という状態が起こります。 ここで大切なのは、いきなり「中学2年生だから中学2年生向けの名作を読ませる」と考えないことです。
これまでの記事でも書いてきましたが、在外のお子さまの場合、本人の知的な興味と、日本語で無理なく読める文章のレベルが一致していないことがあります。内容としては中学生向けのテーマに興味があるのに、日本語では小学校高学年向け程度の文章の方が読みやすい、ということもあります。 その場合には、まず本人が「読みたい」と思えるテーマを優先しながら、日本語で一冊読み切る経験を増やす方がよいと思います。
2025年に発表された427人の日本語継承語話者を対象とした研究でも、日本語での読書や作文、宿題などを含む読み書きの経験は、日本語の語彙力との関連を示す重要な要素の一つでした。家庭で日本語を話していることだけでなく、日本語を文字として使う経験にも意味があることが示されています。ですからJapanese Aを将来考えるとしても、最初にやるべきことはIB対策ではなく、日本語で読むことを日常から消さないことだと思います。
もし今、日本語の本をほとんど読んでいないなら
ここまで読んで、「うちの子は、もう日本語の本をほとんど読んでいない」、「勧めても『日本語は面倒』と言われてしまう」と感じたご家庭もあるかもしれません。 実際、小学校高学年から中学生にかけて日本語の読書が途切れるのは、在外家庭ではとてもよくあることです。学校の課題は英語や現地語で増え、友達との時間も増え、日本語の本はどうしても後回しになります。
その場合、まず目指したいのは「年齢相応の本を読ませる」ことではなく、日本語で読むことへの抵抗を下げることです。
例えば、本人がすでに英語で読んで好きだった作品の日本語版を手に取ってみる。アニメや映画で知っている作品の原作を読んでみる。サッカー、ゲーム、料理、動物など、本人の興味がある分野のノンフィクションや短い読み物から始める。漫画も、日本語の文字に触れる入口としては十分に意味があります。
この段階では、読み終えたあとに内容を確認する質問をしすぎない方がよいと思います。「読んだら試される」と感じると、日本語の本はさらに遠ざかります。最初は「面白かった?」くらいで十分です。
もう一つ大切なのは、中学生になってから再開しても遅すぎるわけではないということです。会話の日本語が残っている子どもは、読む量が戻ってくると語彙や読む速さも比較的早く戻ってくることがあります。ただし、それには一定の期間が必要です。DP直前ではなく、気づいた今から少しずつ始めることに意味があります。
家庭だけでは読む時間を確保しにくい場合には、日本語で本を読むこと自体を習慣にできる場を外に持つのも一つの方法です。私たちの「読書で育てる国語力」のクラスでも、教室の中で実際に本を読む時間を取り、そこから語彙力、読解力、読む速さを少しずつ育てています。
「あらすじ」から「なぜそう思うのか」へ進む
本を読んだ後に、「何が書いてあった?」と聞くと、内容を説明できる子はたくさんいます。 これは大切な力です。
しかし、中学生くらいから少しずつ、その先へ進めてみてもよいと思います。例えば、
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「この中で一番印象に残った場面は?」
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「どうしてそこが印象に残った?」
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「主人公は、なぜその行動をしたと思う?」
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「別の登場人物から見たら、この出来事はどう見える?」
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「その考えは、文章のどこから分かる?」
といった問いです。
ここで重要なのは、正解を当てさせることではありません。自分の考えを出し、その理由を言葉にすることです。さらに、その理由を本文の中から探すようになると、「私はこう思う」だけだったものが、「私はこう考える。なぜなら、この場面で登場人物がこう言っているから」へ変わっていきます。
これはJapanese Aだけに必要な力ではありません。学校でのエッセイ、ディベート、プレゼンテーション、大学でのレポートなど、さまざまな学習へつながる力です。
「感想を書く」から、「考えを組み立てる」へ
日本語の作文というと、「夏休みの思い出」「遠足の感想」「本を読んでどう思ったか」といったものをイメージすることがあります。もちろん、こうした作文にも意味があります。
しかし中学生くらいからは、少しずつ自分の意見を構造化する文章にも触れていった方がよいと思います。例えば、「学校では宿題を減らすべきだと思いますか」という問いについて、「私は減らした方がいいと思います。大変だからです。」で終わるのではなく、
「私は宿題を減らすべきだと考える。理由は、量が多すぎると自分で学習方法を選ぶ時間がなくなるからだ。例えば……」
と、意見、理由、具体例をつなげていく。
反対に、「宿題には学習習慣を維持するメリットもある」
という別の立場についても考える。
こうなると作文は、単に日本語を書く練習ではなく、考えを整理する練習になります。
在外の日本語継承児童の作文発達を小学校4年生から中学3年生まで追った事例研究でも、日本語の語彙や漢字表現には難しさが残る一方、接続表現や文章構造、論理的なまとまりは発達していく様子が報告されています。
この研究は一人の子どもを追跡した事例なので一般化はできませんが、非常に興味深い点があります。それは、漢字や語彙が完璧でなくても、文章を構造化して考えを伝える力は育てられるという点です。
Japanese Aを意識する場合も、漢字の正答率だけを追うのではなく、「この子は日本語で一つの考えを最後まで組み立てられるか」を見ていくことが重要だと思います。
漢字を全部書けることより、文章を読んで考えられること
在外のお子さまの日本語教育では、どうしても漢字が目立ちます。
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学年配当漢字を何字覚えたか。
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漢字テストで何点取ったか。
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日本の同学年と比べてどこまで進んでいるか。
もちろん漢字は、日本語を読むうえで重要です。ある程度の漢字が読めなければ、年齢相応の文章にアクセスすること自体が難しくなります。ただ、Japanese Aを考えるときに、「小学校6年生までの漢字を全部書けるから大丈夫」とも言えません。 逆に、漢字の手書きに多少苦労していても、文章を読み、意味を理解し、その内容について深く考えられるお子さまもいます。
私は、在外のお子さまについては特に、「漢字を書く力」と「日本語で学ぶ力」を分けて見ることが大切だと思っています。スマートフォンやコンピューターで文章を書くことが増えた現在、漢字を手書きできることだけが日本語の読み書きの力ではありません。もちろん書字を完全に捨てる必要はありませんが、限られた学習時間の中で、
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漢字ドリルを30分増やすのか。
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それとも、日本語の本を30分読むのか。
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文章について親子で話すのか。
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短い意見文を書くのか。
という選択になった場合、Japanese Aにつながる力という観点では後者にも大きな意味があります。
小説だけ読んでいればよいわけでもない
Japanese Aと聞くと、「文学をたくさん読ませなければ」と考えるかもしれません。確かにLanguage A: Literatureでは文学作品が中心です。しかしLanguage A: Language and Literatureでは、文学作品だけでなく、さまざまな非文学テキストも扱います。現在のコースでも、文章の目的、読者、文脈などを意識しながら、テキストがどのように意味を作っているかを批判的に読むことが重視されています。 ですから、中学生の段階では小説だけでなく、
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ニュース記事
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エッセイ
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人物のインタビュー
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科学や社会についての説明文
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広告
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新聞のコラム
といった文章にも日本語で触れるとよいと思います。 例えば、同じニュースについて二つの記事を読んで、
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どちらの記事の方が肯定的に書いている?
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「タイトルの付け方はどう違う?」
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「誰に読んでもらうことを想定していると思う?」 と話してみる。
これだけでも、文章を「情報の入れ物」として読むところから、書き手の意図や表現まで考えて読む方向へ少しずつ進むことができます。
「二つを比べる」経験も増やしてほしい
Japanese AのPaper 2では、二つの作品をもとに比較論述を行います。もちろん、中学生にPaper 2の練習をさせる必要はありません。ただ、「一つについて考える」だけでなく、二つを比べる経験は早めに作ることができます。
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例えば、同じ戦争を扱った二つの作品
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同じスポーツ選手について書かれた二つの記事
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同じニュースを報じる二つの新聞
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同じテーマについての賛成・反対の意見
こうしたものを読み、
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「共通しているところは?」
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「違うところは?」
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「なぜ違うと思う?」
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「どちらの方が説得力がある?」
と考えてみる。この「比較する」という作業は、思っている以上に高度です。一つ目の文章を理解し、二つ目も理解したうえで、両者の共通点と相違点を抽象化しなければならないからです。この力はIBだけではなく、大学で資料を比較したり、社会の中で複数の意見を判断したりするときにも必要になります。
口頭で「きちんと説明する」経験も必要になる
在外のお子さまで見落とされやすいのが、日本語でフォーマルに話す経験です。家庭では日本語を流暢に話していても、会話の相手は家族です。「あれさ、今日学校でさ……」と言えば、親は背景を知っていますし、「○○君のこと?」と補ってくれます。
でも、Japanese AのIndividual Oralのような場では、相手が補ってくれることを前提にはできません。自分で話の順序を作り、必要な背景を説明し、分析した内容を筋道立てて伝える必要があります。Language Aのコース自体も、書くだけでなく口頭で分析や考えを表現する力を重視しています。 ですので中学生くらいから、時々、
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「その本について、読んでいない人にも分かるように3分で説明してみて」
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「あなたの意見と、その理由を説明して」
というような機会を作ることにも意味があります。
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日本語でプレゼンテーションをする。
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家族に本を紹介する。
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日本の祖父母に学校で学んだことを説明する。
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テーマを一つ決めて短いスピーチをする。
大げさな授業にする必要はありません。家庭会話以外の日本語を使う場所を作ることが重要なのだと思います。
中学生のうちに、どこまでできればよいのでしょうか
ここまで読むと、「では中学3年生までに、どのレベルまで行けばJapanese Aを取れるのですか?」と思うかもしれません。
残念ながら、これには明確な点数や学年基準はありません。IBにも、「中学生でこの漢字が読めればJapanese Aに進める」「800字書ければ履修できる」といった基準はありません。また、学校によって履修判断も異なります。 ですから、私はJapanese Aの準備を一つのテストで判断するのではなく、いくつかの力の組み合わせとして見るのがよいと思っています。
例えば14~15歳くらいになったとき、年齢に大きく外れない日本語の本を一冊読み通すことができ、その内容について自分の考えを説明できる。文章の中から、その考えを支える部分を探せる。社会的なテーマについて、自分の意見、理由、具体例をある程度まとまった文章にできる。そして一つのテーマについて、数分間、日本語で順序立てて説明できる。
これらがすべて完璧である必要はありません。むしろ、
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読む力はかなりあるけれど、書く経験が少ない
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会話は強いけれど、文章になると語彙が足りない
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作文はできるけれど、日本語の本をほとんど読んでいない
というように、その子なりの得意・不得意の形が見えてくるはずです。
語彙や読解の現在地を客観的に知りたい場合には、私たちの教室で行っている読書指数診断のような測定も、一つの材料になります。Japanese Aへの適性を判定するものではありませんが、家庭での印象だけでは見えにくい部分を確認できます。そこが分かれば、残りの1~2年で何を補えばよいのかを考えられます。
Japanese Aを目指さない家庭にも、同じ力には意味がある
ここで一つ誤解してほしくないことがあります。この記事は、「在外日本人ならJapanese Aを取るべき」という話ではありません。 English Aを選ぶ家庭もありますし、日本語は家庭言語として残し、学校教育は英語を中心に進めるという選択もあります。それは十分に合理的です。またJapanese Aを選ばないから、日本語教育に失敗したということでもありません。
ただ、ここまで取り上げてきた、
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日本語で年齢相応の文章を読む
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内容について考える
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自分の意見と理由を説明する
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文章を書く
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複数の情報を比較する
という力は、Japanese Aを履修しなくても無駄にはなりません。
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将来日本の大学へ進む
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日本語で仕事をする
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日本のニュースや本を読む
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日本に住む
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家族や社会と日本語で複雑な話をする
そうした場面で使える力だからです
Japanese Aは、その力をどこまで育てるかを考える際の、一つの具体的な将来像として捉えるくらいがよいと思います。
親がJapanese Aの先生になる必要はない
では、家庭では毎日本を読ませ、作文を添削し、文学について質問し続けなければならないのでしょうか。私はそうは思いません。親が先生になりすぎると、日本語そのものが「勉強の言葉」になってしまうことがあります。
親にできる最も大きなことは、日本語を使う材料と機会を用意することだと思います。本人が興味を持ちそうな本を家に置く。日本語で読めるニュースを送る。一緒に映画を見て感想を話す。「それはなぜ?」と、ときどき聞いてみる。日本の家族と少し深いテーマについて話す機会を作る。
時間の目安としては、毎日長時間取り組む必要はありません。例えば週に数回、1回20~30分ほど日本語で読む時間があるだけでも、まったく読まない状態とは大きく違います。大切なのは量よりも、日本語で読むことが途切れないことです。
また、国際結婚などで日本語を話す親が一人だけの家庭や、仕事で時間を取りにくい家庭もあると思います。その場合は、すべてを家庭の中で完結させようとしなくて大丈夫です。日本の祖父母とのオンライン通話、補習校や日本語の教室の友達など、家庭の外に日本語を使う相手や場所を持つことも、立派な環境づくりです。
そして、本格的に文章の読み方や書き方、考えの組み立て方が必要になった段階では、学校の先生や専門の指導者に任せる。家庭は日本語を育てる環境を作り、教育者は技術を教える。そのくらいの役割分担でよいと思います。
私たちの教室でも、この記事で書いてきた「読む」と「考えて表現する」を、二つのクラスに分けて育てています。小学生から高校生を対象とした「読書で育てる国語力」では、教室で実際に本を読み、語彙力、読解力、読む速さを伸ばしながら、論理的に考えるための土台となるインプットを育てます。そのうえで中学生も対象としたロジカルシンキング教室では、読書で得た語彙力や読解力をもとに、意見と理由を組み立てて書く、異なる立場を比べる、人に分かるように説明するといったアウトプットを練習します。小学生のお子さまには、考える・話す・書く力を少人数で育てる「日本語での表現クラス」もあります。
SSSTを考えている家庭ほど、早めに自立した読書力を
前回の記事で触れた通り、学校にJapanese Aがない場合、Language A: Literature SLであればSchool-Supported Self-Taught(SSST)という選択肢があります。ただし、SSSTはSLのみであり、学生には学校と外部の指導者による支援が必要です。IBのガイドでも、SSSTの学生は通常のSLと同じ基本的なシラバス要件を満たすことが求められています。これは「先生がいないから簡単なJapanese A」という意味ではありません。
むしろ日本語の授業が学校内に通常の形で存在しない分、自分で作品を読み、課題を進める力がより重要になる場合があります。そのため将来SSSTの可能性があるご家庭ほど、中学生のうちから、「日本語の本は、誰かに読めと言われなければ読まない」という状態から、自分で日本語の本を読み、自分で内容について考えられる状態へ少しずつ移していく意味があります。
「Japanese A対策」ではなく、日本語を年齢と一緒に育てる
ここまでJapanese Aについて書いてきましたが、結局のところ、特別なことを言っているわけではありません。
小学生のときには、小学生なりの本を読む。中学生になったら、中学生なりのテーマについて読む。少しずつ、感想だけでなく理由を説明する。自分と違う意見も読む。文章を書く。人に分かるように説明する。つまり、本人が成長するのと一緒に、日本語でできることも成長させていく。それだけです。
在外のお子さまの場合、学校で使う英語や現地語は、学校生活とともに自然に年齢相応へ引き上げられていきます。Grade 6になればGrade 6の文章を読み、Grade 8になればGrade 8のエッセイを書きます。
しかし日本語は、家庭で会話しているだけでは、同じ仕組みが自動的にはありません。だからこそ日本語については意識的に、「今、この子は13歳だけれど、日本語でも13歳らしいことを読んだり考えたりしているだろうか」と、ときどき確認してみる。私は、それが一番大切なのだと思っています。
そのうえで、DP開始の1~2年前になったら、学校のDP CoordinatorやLanguage A担当者に相談し、現在の日本語でJapanese Aが現実的なのか、SLとHLのどちらが適切なのか、学校にJapanese Aがあるのか、SSSTになるのか、何を補強する必要があるのかを確認する。15~16歳になって初めて「日本人だからJapanese Aにする?」と考えるより、その方がずっと本人に合った選択ができます。
Japanese Aを選べるかどうかは、その結果の一つにすぎません。選ばなかったとしても、それまで育ててきた日本語が無駄になることはありません。日本語で本を読み、考え、書き、人に説明できる力そのものが、その子に残ります。
これまでこの連載で何度も書いてきた、「日本語を維持する」のではなく、「本人の年齢と一緒に日本語も成長させる」。IBのJapanese Aという進路を考えると、その意味がさらに具体的に見えてくるのではないでしょうか。
参考資料
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International Baccalaureate, Language A: literature
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International Baccalaureate, Language A: language and literature
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International Baccalaureate, Examiner Instructions 2026 — Language A
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International Baccalaureate, Language A: literature guide
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Kubota, M. & Rothman, J. (2025), Modeling individual differences in vocabulary development: A large-scale study on Japanese heritage speakers, Child Development, 96(1), 325–340.
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外山千咲・柴山真琴・高橋登・池上摩希子(2019)「継承日本語学習児における二言語作文力の発達過程」『日本語教育』172, 102–117.
