海外駐在の学校選びは、「入口」より「出口」を考えてほしい
September 29, 2026
目次
- 1. 「せっかく海外に来たのだから」で学校を選ぶ前に、帰国後まで考えていますか?
- 2. 3年間その言語で学んだあと、その次は何語で学ぶのでしょうか
- 3. 学習言語を変えるということは、「会話の言語」を変えることとは違う
- 4. 駐在家庭の場合、「出口」が最初からある程度分かっている
- 5. 第三言語を学ぶこと自体が問題なのではありません
- 6. 「何語話せるか」だけではなく、「何語で学べるか」
- 7. 学校を選ぶとき、「今の学校」ではなく「次の学校」を見る
- 8. 「帰国するか分からない」場合はどうするのか
- 9. 子どもにとっての「選択肢」を、本当に増やしているか
- 10. 「せっかく海外にいるから」は、十分な理由なのでしょうか
- 11. 学校選びは、点ではなく線で考える
- 11-1 参考資料
「せっかく海外に来たのだから」で学校を選ぶ前に、帰国後まで考えていますか?
海外赴任が決まると、多くのご家庭が子どもの学校選びに悩みます。日本人学校にするのか、現地校にするのか、インターナショナルスクールにするのか。英語圏以外であれば、さらに現地語で教育を行う学校という選択肢もあります。
海外で暮らす機会は、子どもにとって非常に貴重です。「せっかくフランスに来たのだからフランス語を身につけてほしい」「せっかくオランダにいるのだから現地の学校で学ばせたい」と考えるのは、とても自然なことだと思います。実際、現地の言語や文化の中で学ぶことで、日本では得られない経験をすることができます。
ただ、駐在家庭の学校選びを考えるとき、私は一つだけ、かなり早い段階で考えてほしいことがあります。
その学校にどう入るかではなく、その学校から次にどこへ出るのか。
つまり、「入口」よりも「出口」です。
3年間その言語で学んだあと、その次は何語で学ぶのでしょうか
以前、あるフランスに駐在された家庭のお話を聞いたことがあります。「せっかくフランスに来たのだから」と、お子さまをフランス語を主な学習言語とする学校へ通わせることにしました。
数年間の海外生活の中で、お子さまはフランス語を身につけました。それ自体は素晴らしいことです。新しい言語を身につけ、その言語で学校生活を送り、異なる文化の中で学ぶという経験は、大きな財産になったと思います。
ところが、駐在期間を終えて中学生の時期に日本へ帰国すると、別の問題が出てきました。
日本語での日常会話はできます。しかし、日本の学校では、理科も社会も数学も国語も、すべて日本語で学びます。教科書に出てくる語彙も、問題文の表現も、授業中の説明も、これまで数年間使ってきたフランス語での学習言語とは違います。
その結果、日本の学校の授業についていくこと自体に大きな負荷がかかり、高校受験の準備にも影響が出ました。最終的にそのご家庭は、日本での進学を続けるのではなく§再びフランスに戻り、海外で教育を受けるという選択をしました。
このご家庭の判断が間違っていた、と言いたいわけではありません。結果として海外で教育を継続する道を選び、それがそのお子さまにとってより良い選択だった可能性もあります。
ただ、この事例を聞いたとき、私は強く思いました。
学校を選ぶときに、その3年間だけを見るのではなく、「3年後にどの教育システムへ接続するのか」まで考えておく必要があるのではないか。
学習言語を変えるということは、「会話の言語」を変えることとは違う
ここまでの連載でも何度も書いてきましたが、日常会話ができることと、その言語で学べることは同じではありません。
例えば、日本語で友達と話せても、日本の中学の社会科の教科書をすぐに理解できるとは限りません。「立法」「需要」「供給」「背景」「要因」「対立」「影響」といった教科学習で使う語彙や、資料を比較して答えを導き出す文章表現に慣れている必要があるからです。
逆に、フランス語や英語で学校生活を問題なく送れるようになったとしても、その言語で高校レベルの文章を読み、論理的なEssayを書けるようになるには、さらに時間が必要です。
つまり、学校の学習言語を変えるということは、単に「新しい言葉を覚える」という話ではありません。その言語で知識を身につけ、情報を整理し、文章を読み、自分の考えを説明するための学習言語そのものを作り直していくことでもあります。
UNESCOも多言語教育について、子どもが十分に理解できる言語を学習の基盤として使うことの重要性を指摘しています。特に、一つの学習言語から別の言語へ移行する際には、第一言語での学習基盤を十分に育てながら段階的に移行することが重要だとされています。
これは「第二言語や第三言語で教育を受けるべきではない」という意味ではありません。むしろ、複数言語で学べることには大きな価値があります。
問題は、その移行を教育計画として考えているかどうかです。
駐在家庭の場合、「出口」が最初からある程度分かっている
移民家庭や永住家庭と、駐在家庭には大きな違いがあります。駐在の場合、多くの家庭では海外生活にある程度の期限があります。
3年後に日本へ帰る可能性が高い。5年後かもしれない。会社の都合なので確定はしていない。それでも、「将来日本へ戻る可能性が比較的高い」ということ自体は分かっていることが多いのではないでしょうか。
そうであれば、学校を選ぶときに「この3年間で何を得られるか」だけでなく、帰国時に何が必要になるかまで考えておいた方がよいと思います。
例えば、小学2年生から3年間海外で過ごし、小学5年生で日本へ戻る場合と、中学1年生から3年間海外で過ごし、高校受験直前に戻る場合とでは、同じ「3年間の海外生活」でも意味は全く違います。
低学年であれば、帰国後に時間をかけて日本語での学習へ再適応できる可能性があります。一方、中学生で戻れば、帰国したその日から日本語で数学や理科や社会を理解しながら、同時に高校受験の準備を進めなければならないこともあります。
日本の文部科学省も、帰国児童生徒について、日本語能力などの事情によって直ちに相当学年で学ぶことが適切でない場合には、学校生活への適応を考慮した対応が可能であることを示しています。つまり制度上も、「海外から戻れば、その日から何の問題もなく日本の同学年へ戻れる」と単純には考えられていません。
第三言語を学ぶこと自体が問題なのではありません
ここは誤解のないように強調しておきたいと思います。
フランスに住んでいる子どもがフランス語で学ぶことも、オランダに住んでいる子どもがオランダ語で学ぶことも、それ自体は素晴らしい選択肢です。
実際、現地語で教育を受けることで、単に言葉だけではなく、その国の文化や考え方、友人関係、社会そのものに深く入ることができます。「海外に住んでいた」という経験と、「その社会の中で生活した」という経験は同じではありません。
だから、「第三言語の学校は危険」という話ではありません。
私が考えてほしいのは、その言語を、いつまで学習言語として使う予定なのかということです。
例えば、フランス語で小学3年生から小学6年生まで学び、その後もフランス語圏で中学・高校・大学まで進むのであれば、フランス語はその子にとって継続的な学習言語になります。
一方、小学校の3年間だけフランス語で学び、中学から日本語へ完全に戻るのであれば、その3年間の教育をどのように日本語での学習へつなぐのかを考えておく必要があります。
さらに、親がその言語を話せず、帰国後もその言語を使う環境がほとんどないのであれば、せっかく身につけた言語自体を維持することも難しくなる可能性があります。
そうなると、
「日本語での学習を3年間止めた」
「第三言語を3年間学んだ」
「しかし帰国後は第三言語を使わなくなった」
という状態になることがあります。
これを教育としてどう評価するかは、家庭の価値観によります。ただ、少なくともそこまで想定したうえで選んだのかどうかは、とても大きな違いだと思います。
「何語話せるか」だけではなく、「何語で学べるか」
海外で子育てをしていると、「何か国語話せるか」ということに目が向きやすくなります。
日本語、英語、オランダ語。3か国語話せる。それは確かに素晴らしいことです。
でも、この連載で繰り返し書いてきたように、私は子どもの言語を見るとき、「何語話せるか」だけでは足りないと思っています。
もう一つ、
「どの言語なら、年齢相応のことを深く学べるのか」
を見る必要があります。
例えば3言語で日常会話ができても、どの言語でも年齢相応の長い文章を読めないのであれば、学習という面では別の課題があります。
反対に、日本語と英語の2言語しか使えなくても、日本語では文学や社会問題について深く考えられ、英語では学校のEssayを書けるのであれば、非常に強いバイリンガルです。
私は、言語教育を考えるとき、
言語の「数」より「深さ」
を一度考えてみてもよいと思っています。
学校を選ぶとき、「今の学校」ではなく「次の学校」を見る
では、海外赴任時の学校選びで具体的に何を考えればよいのでしょうか。
私は、現在検討している学校だけを見るのではなく、その次に通う可能性が高い学校を一緒に見ることをおすすめします。
3年後に日本へ帰るなら、その時点でお子さまは何年生でしょうか。日本の学校では、その学年でどの程度の文章を読み、どの程度の漢字を使い、理科や社会でどんな内容を学んでいるでしょうか。
高校受験の時期と重なるのであれば、受験科目はどうなっているでしょうか。帰国生入試という選択肢はあるでしょうか。日本語で作文や小論文を書く必要はあるでしょうか。
逆に、海外で高校まで進むのであれば、今通っている学校からどの教育課程へ進むのでしょうか。IBなのか、A-levelなのか、各国の国内カリキュラムなのか。そのとき必要な言語は何でしょうか。
こうやって「次」を見ると、
今、日本語をどこまで維持すべきなのか。
現地語をどこまで伸ばすべきなのか。
英語をいつから本格化すべきなのか。
という判断が変わってきます。
学校選びが単なる「今の学校探し」ではなく、一つの教育経路を設計する作業になります。
「帰国するか分からない」場合はどうするのか
駐在家庭では、これが一番難しいと思います。
3年と言われていた赴任が5年になることもある。逆に突然帰任になることもある。転職してそのまま海外へ残る可能性もある。
つまり、出口が分からない。
その場合は、一つに決め打ちするよりも、選択肢を残すという考え方が重要になります。
例えば、インター校や現地校へ通いながらも、日本語での読書は続ける。日本の算数や国語に完全に合わせる必要はなくても、日本語で年齢相応の文章を読む力はできるだけ残しておく。
日本へ戻らなければ、その日本語は無駄になるのでしょうか。
私はそうは思いません。
日本語で本を読み、日本語で考え、日本の社会や文化へ直接アクセスできる力は、それ自体が一つの資産です。
そして突然帰国することになった場合にも、「ゼロから日本語の学習言語を作り直す」という事態を避けやすくなります。
これは、以前の記事で書いた、「追いつくより、大きく離れない」という考え方と同じです。
子どもにとっての「選択肢」を、本当に増やしているか
海外の学校選びでは、
「英語を身につければ将来の選択肢が増える」
「フランス語もできればさらに有利」
という話をよく聞きます。
それ自体は間違いではないと思います。
でも、新しい言語を一つ加えるために、それまで使っていた学習言語を完全に手放した結果、別の進路が非常に難しくなるのであれば、
本当に選択肢は増えたのでしょうか。
私は、ここを一度考えてみてもよいと思います。
選択肢を増やすとは、話せる言語の数を増やすことだけではなく、将来どの教育システムへもある程度移れる状態を残すことでもあるはずです。
-
日本へ戻れる。
-
海外にも残れる。
-
日本の大学も考えられる。
-
海外の大学も考えられる。
もちろん、すべてを完璧に準備することはできません。
でも、どの扉を開けておき、どの扉を閉じるのかを家庭として理解していることは重要です。
「せっかく海外にいるから」は、十分な理由なのでしょうか
海外駐在という機会は、確かに特別です。
日本ではできない経験をさせたい。
現地の人と同じ学校に通わせたい。
新しい言語を身につけさせたい。
その気持ちは、とてもよく分かります。
でも、教育は旅行ではありません。
「せっかく来たのだから、経験させてみよう」だけではなく、その経験が子どものその後の教育にどうつながるのかまで考える必要があります。
特に、学習言語を変えることには、それなりの時間と負荷が伴います。UNESCOも、教育言語の移行について、子どもが十分に理解できる言語を土台にしながら段階的に別の言語へ移ることの重要性を繰り返し指摘しています。
だからこそ、「この学校に入ったら英語が身につきそう」だけで終わらず、「この学校を出たあと、この子はどこへ行くのだろう」まで考える。
それが、駐在家庭の学校選びではとても重要だと思っています。
学校選びは、点ではなく線で考える
以前の記事で、「インター校がお子さまにとって本当にベストな選択なのか」という問いを投げかけました。
日本語や母語教育について考えてきた今、もう一度その問いに戻ると、私が一番伝えたいことは、インター校か日本人学校か、現地校かという「学校の種類」の問題ではないことが分かります。
重要なのは、教育を点ではなく、線で見ること。
小学3年生の今だけを見るのではなく、
-
小学6年生
-
中学3年生
-
高校
-
大学
そしてその先まで、完全には予測できなくても、いくつかの可能性を考えてみる。
今選ぼうとしている学校が、その次の学校へどうつながるのか。
今選ぼうとしている学習言語が、その後も使われるのか。
もし別の言語へ戻るなら、その橋をどう残しておくのか。
そこまで考えて学校を選べば、海外教育は子どもにとって非常に大きな財産になると思います。
第三言語を学ぶことも、インター校へ通うことも、日本人学校を選ぶことも、それ自体に正解・不正解があるわけではありません。家庭によって、答えは違います。
ただ、一つだけ共通して考えてほしいことがあります。学校を選ぶとき、「どこに入るか」だけでなく、「そこからどこへ出るのか」まで考えてみる。それだけで、同じ学校選びでも見えるものが大きく変わってくるのではないでしょうか。
参考資料
-
UNESCO (2023), Early-exit language transitioning programming: The rationale, the benefits and the limitations
-
UNESCO Global Education Monitoring Report (2025), The right multilingual education policies can unlock learning and inclusion
-
文部科学省「外国から帰国した学齢児童生徒の就学手続について」
